ヨルシカ『盗作』に隠された文学と芸術――『1984』、尾崎放哉、月光、ジムノペディ。元ネタを一曲ずつ読み解く

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ヨルシカ『盗作』と文学・芸術

ヨルシカ『盗作』に隠された文学と芸術――『1984』、尾崎放哉、月光、ジムノペディ。元ネタを一曲ずつ読み解く

ヨルシカの『盗作』は、タイトルからして異様なアルバムだ。

「盗作」という言葉をそのまま作品名にしてしまったこのアルバムでは、 音楽の盗作を繰り返す一人の男を主人公に、 14曲の音楽と小説によって一つの物語が描かれている。

そして、この作品の面白さは「盗作」というテーマが、 単なる物語設定にとどまっていないことにある。

ジョージ・オーウェルの『1984』。 尾崎放哉の俳句。 ベートーヴェンの「月光」。 エリック・サティの「ジムノペディ」。

さまざまな文学や音楽作品が、 『盗作』という作品そのものに組み込まれている。

この記事では、 「何となく似ている」という推測ではなく、作者が明言している情報を中心に、 『盗作』と文学・芸術作品との関係を一曲ずつ整理していく。

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『盗作』は「音楽の盗作をする男」の物語

『盗作』は2020年7月29日に発売されたヨルシカの3rdフルアルバム。 全14曲で構成されている。

初回限定盤には、約130ページの短編小説 「盗作」 が収録されている。

そこでは、音楽を盗作する男の独白と、 彼が出会った少年との交流が描かれる。

つまり『盗作』は、

音楽だけで完結するアルバムではない。
音楽と小説が、それぞれ別の角度から同じ主人公の物語を描いている。

n-buna自身も、最初にアルバム全体のテーマとプロットを考え、 その後、楽曲と小説を同時進行で制作したと説明している。

なぜヨルシカは「盗作」をテーマにしたのか

そもそも、なぜ「盗作」なのか。

n-bunaによれば、制作の出発点にあったのは、 「ヨルシカへの破壊衝動」 だった。

それまでヨルシカが積み重ねてきた、 夏の空気感や別れ、喪失感を美しく描く音楽。 そのイメージそのものを一度壊してみたかったという。

そして、音楽における大きなタブーとして選ばれたのが、 「盗作」だった。

さらに興味深いのは、 「オリジナリティ」という価値観そのものへの問題提起が、 このアルバムの根底にあることだ。

「誰かの作品から影響を受けること」と 「自分だけの作品を作ること」は、 本当に完全に別のものなのか。

『盗作』は、そんな問いを 「盗作」という極端な形 で作品にしている。

「音楽泥棒の自白」――ベートーヴェン「月光」

まず注目したいのが、アルバム冒頭の 「音楽泥棒の自白」

この曲には、 ベートーヴェンのピアノソナタ第14番、 通称「月光」の旋律が使われている。

n-buna本人も、 この曲の根底にあるピアノの旋律について 「月光」だけではなく、 ベートーヴェン的なメロディや音使いを取り入れたと説明している。

さらに、さまざまな音をコラージュのように散りばめ、 最後に「月光」へ収束させる構成にしたという。

つまり、この曲そのものが 「盗む」というアルバムのテーマを音楽的に実演している

関係作品
ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27-2『月光』」

関係
メロディ・音使いを引用/コラージュ的に使用

確度
作者本人が説明

「思想犯」――ジョージ・オーウェル『1984』

『盗作』の中でも、 文学作品との関係が特に明確なのが 「思想犯」だ。

この曲のテーマになっているのが、 ジョージ・オーウェルのディストピア小説 『1984』

『1984』では、 国家によって思想や言葉までも管理される世界が描かれる。

そして「思想犯」という言葉自体が、 その世界観を連想させる。

ここは単に 「歌詞が『1984』っぽい」 という考察ではない。

n-buna本人が、 「思想犯」というテーマ自体が『1984』をもとにしている と明言している。

関係作品
ジョージ・オーウェル『1984』

関係
「思想犯」のテーマ

確度
作者本人が明言

さらに「思想犯」には尾崎放哉の俳句がある

「思想犯」は、 『1984』だけを元にした曲ではない。

ここからが『盗作』らしいところだ。

n-bunaは、 この曲の歌詞に尾崎放哉の俳句から取った箇所がある と説明している。

しかも単なる雰囲気の引用ではない。

尾崎放哉の晩年の作品や辞世の句を、 直接的にオマージュしている と本人が語っている。

つまり「思想犯」は、

ジョージ・オーウェル『1984』

尾崎放哉の俳句・晩年の作品

盗作家の男の物語

という複数の作品・思想を重ね合わせて作られた曲なのだ。

なお、この記事では歌詞全文や俳句全文を転載せず、 「どの作品が引用元として確認できるか」 を中心に紹介している。

「朱夏期、音楽泥棒」――サティ「ジムノペディ」

文学作品ではないが、 『盗作』を語るうえで絶対に外せないのが エリック・サティの「ジムノペディ」

n-bunaによれば、 「朱夏期、音楽泥棒」には 「ジムノペディ」のメロディ が入っている。

「朱夏期」という言葉自体も、 「青春期」から作った造語。

「朱夏」は人生の壮年期を表す言葉で、 この頃の盗作家は若い頃のように 手当たり次第に音楽を盗むのではなくなっている。

そのため、 「ジムノペディ」のメロディを取り入れながらも、 よりシンプルで美しい曲にしているという。

『盗作』は「引用そのもの」が作品のテーマ

ここまで見てくると、 『盗作』における引用は単なる遊びではないことが分かる。

ベートーヴェン。 サティ。 オーウェル。 尾崎放哉。

異なる時代、異なるジャンルの作品が 一つのアルバムの中へ取り込まれている。

しかも、それをやっているのは 「盗作家」という主人公。

つまり、 「他人の作品を借りることは悪なのか?」 という問いを、 アルバムの物語だけでなく、 実際の音楽制作そのものにも仕掛けている。

「本当に全部盗作なのか?」という仕掛け

『盗作』には、もう一つ非常に面白いポイントがある。

n-bunaは公式インタビューの中で、 「月光」や「ジムノペディ」のように 分かりやすく引用している部分については認めている。

しかし、 アルバムの他の部分まで実際に既存曲から盗用しているのか については、明言しないという立場を取っている。

つまり、 「ここは分かりやすい引用ですよ」 という部分をあえて見せながら、 それ以外については謎を残している。

これは『盗作』という作品そのものに仕掛けられた、 非常に面白いメタ的な構造だ。

『盗作』で確認できる文学・芸術作品

作品 種類 関係
音楽泥棒の自白 ベートーヴェン「月光」 クラシック音楽 メロディ・音使いを引用
思想犯 ジョージ・オーウェル『1984』 小説 曲のテーマ
思想犯 尾崎放哉の俳句・晩年の作品 俳句 歌詞への直接的なオマージュ
朱夏期、音楽泥棒 エリック・サティ「ジムノペディ」 クラシック音楽 メロディを使用

※上記は作者本人の公式インタビューで確認できる関係を中心に整理しています。 「似ている」という理由だけで元ネタとは断定していません。

『盗作』の面白さは「盗んだ作品」を探すだけではない

『盗作』を聴くとき、 「この曲の元ネタは何だろう?」 と探したくなる。

もちろん、それもこのアルバムの楽しみ方の一つだ。

でも、本当に面白いのは、 なぜn-bunaがその作品を選んだのか まで考えてみることだと思う。

『1984』。 尾崎放哉。 「月光」。 「ジムノペディ」。

それぞれに描かれているものは違う。

それでも、 「思想」 「孤独」 「破壊」 「模倣」 「芸術」 といったテーマが、 『盗作』という一人の男の人生に集約されていく。

だから『盗作』は、 「元ネタを当てるアルバム」ではなく、「作品は何によって作られるのか」を考えさせるアルバム なのかもしれない。

まとめ

ヨルシカ『盗作』には、 文学作品やクラシック音楽から取り入れられた要素が複数存在する。

特に重要なのが、 「思想犯」

この一曲には、 ジョージ・オーウェル『1984』という小説と、 尾崎放哉の俳句・晩年の作品という、 二つの文学的な背景が存在する。

さらに、 「音楽泥棒の自白」にはベートーヴェンの「月光」、 「朱夏期、音楽泥棒」にはサティの「ジムノペディ」。

つまり『盗作』というタイトルは、 単なる物語上の設定ではない。

「他人の作品を取り込み、新しい作品へ変えていく」 という行為そのものが、 このアルバムの制作方法とテーマに組み込まれている。

そして、 「これは盗作なのか?」 「これはオマージュなのか?」 「そもそも創作に完全なオリジナリティは存在するのか?」

そんな問いを、 ヨルシカは「盗作」という極端なタイトルで投げかけている。

この記事で確認できた文学・芸術作品

  • ジョージ・オーウェル『1984』 ― 「思想犯」のテーマ
  • 尾崎放哉の俳句・晩年の作品 ― 「思想犯」への直接的なオマージュ
  • ベートーヴェン「月光」 ― 「音楽泥棒の自白」に引用
  • エリック・サティ「ジムノペディ」 ― 「朱夏期、音楽泥棒」にメロディを使用

『盗作』には、ここで確認できたもの以外にも、 さまざまな引用やオマージュが仕掛けられている。

ただし、作者が明言していないものについては、 「元ネタ」と断定せず、 有力な考察として別枠で扱うことが重要だ。

※本記事では、ヨルシカ・n-buna本人による発言などで確認できる情報と、 作品から導き出した考察を区別しています。

※歌詞・俳句・小説本文については、著作権上の理由から全文転載を避け、 引用元と関係性を中心に紹介しています。

※「似ている」というだけでは、文学作品からの引用・オマージュとは断定していません。

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